東京工業大学でシンポジウム「宇宙エレベーターの実現可能性と未来への道」開催

2017 年 11 月 8 日

 東京工業大学では「国際的リーダーシップを発揮できる創造的人間の育成」という教育目標に向けて学生を支援する取り組みがなされている。その一環として今月1日、学生主導で「宇宙エレベーターの実現可能性と未来への道」をテーマにシンポジウムが開催された。外部からの講師として、当協会のフェローである大林組の石川洋二氏と大野修一会長が招かれた。

シンポジウムは、前半に二氏の宇宙エレベーターの概要と何故開発がすすめられているのかについての説明がされ、後半では学生代表および会場の学生からの質問に答えるという形式で行われた。

盛況だった全体の様子
プレゼンする(左から)石川氏と大野会長

 後半は カーボンナノチューブなど適した材料の開発状況、安全性、法律・条約・権利問題の3つのテーマがあげられ、学生として疑問を提起し、パネリストが答えるという形式のディスカッションが行われた。

- カーボンナノチューブの開発状況はどうなっていますか

 理論強度では150GPという値もあるが、実験でその強度が得られるまでにはなっていない。また、長さについてもまだ数センチ程度にしか到達していなくて、何らかのブレークスルーが必要。特性については宇宙空間での暴露実験なども行われていて進行中だ。良いニュースは入ってきているが、そういう良い結果を積み重ねていくしかない。ところで、材料は、CNTに拘るわけではない。十分な強度が得られる素材が出現すれば良い。

- 安全性は考えられているのですか。 飛行機などがぶつかったりしないのですか

 安全性は基本的なことで様々な側面が考えられている。現在クリティカルと考えられているリスクが三つある。大気圏内、宇宙空間での衝突、自然災害そして大気圏外の放射線などの現象。飛行機がぶつかる心配は人的社会的課題であり技術者としてはコントロール可能だと考えている。むしろデブリといわれる浮遊物などとの衝突が課題。回避が基本だが防御も含め研究されている。大気圏内の自然災害は、全長10万kmに対して10kmにおける影響なので構造全体に及ぼす影響は相対的に少ない。但し地球側の重要な施設などもあり無視できるものではない。あまり話題にならないが雷の直撃は問題になるだろうと考えられて研究されている。宇宙空間での放射線についてはテザーケーブルに対する影響は先に話した暴露実験で研究中。ただし施設、設備、そして人体への放射線対策は必要とわかっているものの、まだ進んでいない。バンアレン帯を突き抜けるわけだからかなり困難な開発になるだろう。

なお、クライマーの事故の場合は比較的簡単だとこと。大気圏再突入のようにスピードを熱に変換する必要がないため、単に落とせばすむと考えられていて、アニメの大気圏落下のように玉になって落ちる必要はないそうだ。この説明の時、想像と違ったのだろうか、会場からは笑いが出ていた。

学生代表として質問した(左から)中条太一さんと春野絢さん

- 宇宙エレベーターって誰のものなのですか

 統べる法律などない。例えば静止軌道上の設置場所の占有権についての法律はない。宇宙エレベーターを構造物としてあつかう建築基準法が適用されるとは思えない。議論さえほとんどなされていないのが現状。技術者が議論の主体にならず実現性と経済的メリットが見えてこないと進まない側面だろう。ということで、推察として、おそらく国の政府、自治体、国際機関、様々な分野の企業、投資家などが集まって開発、建設および運営がなされることになるだろうというはなしが提供された。建設する会社のものになることはありえない。例えば大林組は発注者から施設の建設を受注することを目標にしているのであって、機械設備などを制作するものではなく、ましてや財務、運営といった側面まで手を広げようとしているものでもない。記録上の所有者は、株式保有者、債権保有者になるだろう。そういうように推測すると、誰が所有するかという議論にはならないですね。誰が、計画・実施するかという議論が先にくるだろう。

予定のディスカッションに続き、会場との質疑応答では、宇宙におけるインフレイタブル構造(空気などを注入することにより膨らませて、膜の内圧により構造を支持して使う膜構造物)の研究は進んでいるのかといった専門的質問もあり、強い関心が感じられた。

最後の学生からのコメントで、宇宙エレベーターが夢物語ではなく実現可能なテーマであることが認識できたこと。実現には技術開発だけではなく様々な分野の英知が必要であることがわかったことなどがあげられた。
また、演者、学生の両方からの、世代をまたぐ壮大なプロジェクトであり、現在の担い手から、将来の担い手へ連なっていかねばならないという発言で締めくくられた。

や運営に携わったり、積極的に参加してくれたりした学生たち
JpSEC, 活動報告 | by 吉田隆一

第56回日本SF大会「ドンブラコンLL」出展記

2017 年 9 月 2 日

表題の通り、2017年8月26日・27日と、静岡県コンベンションセンター「グランシップ」で行われた、第56回日本SF大会にゲスト出展者として参加してきました。(JSEA理事 下條善史)

今回は、一般展示の宇宙関連展示ということで、静岡大学のSTARSプロジェクト紹介のお隣で、宇宙エレベーターの紹介展示を行いました。

さすがにSF大会の参加者だけあって、宇宙エレベーターの基本的な部分はほとんどの方がご存知のようで、「これは何?」というような質問はほとんどなく、むしろ「いつ頃できそう?」「今どこまで行ってる?」というような関心の方が多かったように思いました。一方、今世間では流行りであるだろう「宇宙ビジネス」の視点で捉えるような方はほとんどいなかったように思います。みなさん、フィクションの道具としての認識が強いのでしょうか。「楽園の泉」「星ぼしに架ける橋」といったキーワードへのつながりがメインストリームだったように思い、一般の方たちと比べると、関心の方向の明らかな違いが興味深かったところでした。失礼な偏見なのかもしれませんが、まったく宇宙エレベーターの話なんかしそうにないように見える年配のご婦人の参加者の方に、全く説明なしに静止衛星軌道だのホーマン遷移軌道などの用語を持ち出して説明しても、きっちり理解していただけたというのが、ものすごく驚きの体験でした。すいません、SF大会ナメてました。

さて、今回の展示でのハイライトのひとつは、「こち亀」秋本治先生の訪問でした。
今年の星雲賞コミック部門では、少年ジャンプで40年以上連載を続けておられ、今年連載終了された「こちら葛飾区亀有公園前派出所」が受賞されたのですが、その長い連載史の中には、宇宙エレベーターを取り上げた回もあったんですね。そんなこともあり、我々も宇宙エレベーターの知名度向上に多大に貢献してくださった旨感謝の意味を込めて、その掲載回の解説パネルを用意して展示しておりました。そこにスタッフの方が、星雲賞の受賞スピーチに会場を訪れておられた秋本先生を連れてきてくださって、突然のブース訪問となったわけです。

ほんの一言二言の短い会話でしたが、我々をねぎらってくださって、パネルにサインまでしていただけて、感激の瞬間でした。

実は二日目にはもうひとつのハイライトもありました。

このSF大会では、以前から数年にわたってSFイラストレーターの加藤直之先生が、会場に設営した臨時のアトリエで、作品制作の現場をリアルに実演してくださるイベントが行われていたのですが、ちょうど我々のブースの隣が、そのアトリエだったのです。銀河英雄伝説や宇宙戦艦ヤマトなどの比較的一般向け作品でも有名な方だけに、我々も緊張感と興味を持ってイラスト制作を、展示の合間に眺めさせていただいていたのですが、その加藤先生がある時ふと手を休めて、こちらのブースを訪ねてこられました。で、そのまま宇宙エレベーターについての説明を熱心に聞いていかれたのでした。話の中で、先生自身が宇宙エレベーターをイラストの中にどのように表現するかについて、さまざまに試行された経緯なども話しておられました。どうやら今後の作品の中にも宇宙エレベーターを登場させる機会があるのではないかと考えておられるように見受けられたのですが、どうなんでしょうね。

結局、宇宙エレベーターを中心にした話も弾んで、我々がブースに置いていた宇宙エレベーター関連書籍を寄贈させていただきましたところ、サインまで求められてしまいました。寄贈した書籍の著者である本協会フェローでもある東海大学の佐藤実先生が、骨の髄まで緊張しながらサインをしておられたのが印象に残りました。

そんな感じで、今回のSF大会出展は大きな印象を残して無事終えることができました。参加された皆さんに、宇宙エレベーターの現状はどのように映ったのでしょうか。みなさん、お疲れ様でした。

アウトリーチ活動 | by 吉田隆一
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