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Q21 宇宙エレベーターに乗っているときはどんな食事が出るのでしょう?お酒は飲めるんでしょうか。

A21 低軌道高度では地上と変わりません。静止軌道高度では無重力状態に対応した特別メニューです。

いわゆる「宇宙食」というのは、地上での普通の食品と異なり、軽く、長く持ち、飛び散らないようにつくられています。1つ目の「軽く」というのは、「ロケットと比べるとどんな利点があるのでしょうか?」でも説明したように、打ち上げロケットには余分なものを積み込む余裕がないからです。捨てる部分がないようにするのはもちろんですが、水分もできるだけ抜きます。現在の国際宇宙ステーションには、水は比較的豊富にあるので、地上でフリーズドライにして水分を抜き、軽くして運んでいます。

2つ目の「長く持つ」というのは、ロケットの打ち上げ頻度が少ないので、補給までの期間が長くなるからです。打ち上げの失敗なども考慮して、長期保存が可能なことが必要とされています。三つ目の「飛び散らないように」というのは、無重力状態への対応です。無重力状態では重力がないので、空中にあるものは床に落ちることはありません。クッキーや煎餅【せんべい】の破片や水滴などは、空調の気流に運ばれて、様々な機材や人体に悪影響を及ぼす可能性があります。特に水は危険です。水は、比較的粘り気のある液体なので、口や鼻に付着すると、重力がないので流れ落ちることがなく、少量の水でも窒息することがあり得ます。現在の「宇宙食」では、このようなことに配慮した食品を使っています。
これらの「宇宙食」の要素のうち、軽くすることと長く持つことは、宇宙エレベーターではあまり気にすることはなさそうです。宇宙エレベーターが実現すると、ロケットでの打ち上げよりも、たくさんのものを高い頻度で宇宙に持ち上げることができるようになります。食品も、宇宙に持っていくからといって、特別に軽量化したり保存性を高めたりする必要はないでしょう。ただし、飛び散らないようにすることについては、配慮しなければならない場合があります。

宇宙エレベーターでは、高度が数百キロメートルの低軌道高度での重力は、地上にいるのとあまり変わりませんが、高度3万6000キロメートルの静止軌道高度では、無重力状態です。つまり、低軌道高度では、地上と同じ食品を使うことができますが、静止軌道高度では、無重力状態に対応した食品にしなければなりません。

低軌道高度では、椅子に腰掛け、テーブルに置いた食器から、食事をすることができます。重力は地上とあまり変わらないので、食べ物が皿から浮き上がることも、飲み物がグラスから飛び出すこともありません。アルコールについても、特に問題は起きません。ビールでもワインでも、地上と同じように飲むことができます。宇宙空間に出た記念として、フリーズドライや缶詰などの「宇宙食」を楽しむという企画はあるかもしれませんが、海上ターミナルからの所要時間も数時間なので、新鮮な食材を使った料理を楽しむことができます。

静止軌道高度では無重力状態への対応が必要
一方、静止軌道高度では、無重力状態への対応が求められます。とろみを付けたり、一口サイズにしたりするなど、飛び散らないように配慮した食品が使われます。食器も、皿やグラスに代わるものが必要ですが、現在の「宇宙食」のようなレトルトバックからそのまま食べたり飲んだりするのでは味気ないので、工夫が必要です。アルコールについては、無重力状態では酔いやすいという説もあるようですが、飲めないということはありません。

ただし、注意しなければならないことがあります。アルコールに限らないのですが、炭酸の入った飲み物を飲むには、専用の容器が必要です。炭酸の泡は、重力があれば、浮力で上昇して、あまり大きくならないうちに表面から抜けてしまいます。ところが、無重力状態では、浮力がないため、泡はどんどん大きくなってしまいます。そのため体積が一気に増え、液体が激しく吹き出してしまいます。無重力状態で使える炭酸飲料用の容器はすでに開発されていますが、ビールやシャンパンはあまり美味しく飲むことができないかもしれません。
たくさんの人が無重力状態を経験するようになると、思いもよらない解決法が出てくるとは思いますが、いくつか無重力食品を提案してみましょう。まずは、食器が不要な食品にすることです。

例えば、ピンチョス。一口サイズ程度に切った肉や魚などを、パンと一緒に楊枝【ようじ】や串で刺した、スペインのおつまみです。これなら食器はいりませんし、一口で食べてしまえるので、飛び散る心配もありません。串カツも、衣が飛び散らないようにできれば、無重力向きだと思います。次は、エル・ブジ風ワンスプーン料理。これもまたスペインですが、カタルーニャにあったエル・ブジというレストランで出されたことで有名になった、スプーンに食材を乗せた料理です。ピンチョスと同様、一口で食べることができます。スプーンの代わりに、チリレンゲを使うこともできますね。

最後にスープですが、これもエル・ブジ風にエスプーマでいかがでしょう。ガスを使って食材を泡状にする調理法で、どのような食材でもムースのようにすることができるといわれています。スープをエスプーマにすれば、食器についた泡をすくって食べることができます。なんだか無重力状態には、スペイン料理が向いていそうですね。(佐藤 実)

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