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Black Rock紀行

2017/11/01

Black Rock紀行

JSEA理事の奥野真澄です。
GSPEC(JSEAが開催を計画している新しい宇宙エレベータ/高機動ロボット競技会)調査遠征のため、9/9~17にかけてアメリカはネバダ州のBlack Rock砂漠へ行ってきました。
めったにない機会だし、広い世界を見せてあげたいと小学5年の息子も連れていくことにしたのですが、私もほぼ海外は初めてのうえ英語はからっきし。しかも行き先は人里離れた砂漠...誘った自分の方がオロオロしていて逆に息子に励まされるような、全く頼りにならない母でした。
正式な報告は協会が取りまとめ中ですが、ここではそんな私が見たBlack Rock砂漠の様子をレポートしたいと思います。

<Black Rock砂漠とは>
ネバダ州北部に位置する乾燥地帯で、干上がった湖の湖底が巨大な平地(Playa)として広がっています。面積は東京都がすっぽり入るくらい広大。地面が平坦で都市から離れているため、地上走行実験の舞台となり、これまでに2度地上速度記録が更新されています。また上空に高度規制がかかっていないため、ロケット打ち上げ実験も数多く行われてきました。今回私たちが訪れたのも、ARLISS(小型人工衛星打ち上げ競技会)の実験エリアです。
最近では、夏に行われるイベントBurning Manの会場としても有名なようです。


1.砂漠の入り口で
9/9に日本を出発しSan Franciscoとネバダ州Renoを経由して、Black Rock砂漠への入り口に当たるGerlachの街に着いたのは9/12の夜。
キャンピングカーを停めた駐車場からして既にパウダー状の砂地で、巻き上がる砂塵でまわりの車は真っ白でした。風に当たっていると吸い込んでしまうのか、心なしか喉もヒリヒリします。いよいよだな...と期待に胸を膨らませて眠りにつくと、深夜ものすごい風と雨の音で目が覚めました。締め切っていたはずの窓の桟に砂埃がうっすら積もっています。なんと細かい!

翌朝、昨日の嵐がウソのような快晴の下、みんなで朝食。砂漠の様子を偵察に行ったメンバーによれば、昨日の雨で地面がぬかるんでしまい、乾くまでは砂漠に入れないとのこと。あの細かい砂は水に濡れると粘土状になり、タイヤがとられて車は動けなくなるそうです。乾くまで2時間ほど待つことにして、取り急ぎキャンピングカー2台に給油を済ませ(イメージ通りアメリカのキャンピングカーは大きくて快適な分、恐ろしくガソリンを消費します。その他の資材運搬用の車両もあったので、それはそれはガソリン代がかさみました......)、Black Rockを一望できる高台へ行ってみることにしました。

Gerlachを出ると、もはや道のほかに人間の痕跡はナシ。砂でできた山と、砂とほとんど同じ色をした下草がへばりつくように生えているのみです。それがずーーーーーっと向こうまで続いている......まさに『荒野』の二文字がふさわしい眺めでした。
車を停めて、砂山をえっさほいさと登っていきます。ほかに対象物がないので近くに見えますが、登っても登ってもなかなか頂上は近づいてきません(笑)ふと振り返ると、真っ青な空にぽつんと白い月が見えました。その様子に急に現実に引き戻されて、私は地球の裏側の、こんな砂漠のほとりまで来てしまったのだなあと不思議な気分になりました。隣の息子は「うわー、すごーい」と無邪気に喜んでいますが、果たしてこの状況を理解できているのかどうか......

砂山の頂上から見渡すと、Black Rock砂漠はただひたすらに白く真っ平ら。表面に陽炎が揺らめいている様子が、田植え前の水田のようでした(ネバダまで来て田植えのことを思い出すとは)。終わったばかりのBurning Manの片付け中とおぼしきトレーラーが砂煙をあげてあちこち走っているのですが、それすらもミニチュアのよう。スケールの大きさに圧倒されて、広さの感覚が麻痺していくのを感じます。これはすごいところへ来てしまったぞ......とぼんやりした頭で考えていたのを覚えています。


2.砂漠の洗礼
半分混乱から覚めないまま、9/13午後についに砂漠に入りました。第一印象は「ただただ広く、何もない」。方向感覚がなくなるため、カラーコーンで走るべき経路を簡単に示してはありますが、基本はGPSを使って移動します。キャラバンを組んでも前の車が巻き上げる砂煙で見通しが効かなくなってしまうため、少し離れて走るのがまた不安。時折すれ違うトレーラーは砂で真っ白、そして超巨大。生き物の気配がしない土地だけに、その様子はマッドマックスか北斗の拳かといった世紀末的雰囲気です。
あんなのに襲われたらひとたまりもないなあと勝手にびくびくしていると、テントやキャンピングカーが立ち並ぶエリアに到着。ここが今回一角をお借りする、ロケット打ち上げ競技会ARLISSのフィールドです。同イベントを主催する団体Aeropacにご挨拶を済ませ、いよいよテザードバルーン掲揚です!

Black Rock砂漠は、ラクダが歩いているような私たちがイメージする「いわゆる砂漠」ではありません。地面はどこまでも真っ平ら、何層にも渡ってひび割れが走っていて、踏んでみるとザクッと音を立てて崩れます。砂は非常に細かく、小麦粉かパウダーファンデーションのよう。払うと逆に繊維の奥に入り込んでしまいます。アルカリ性のため、ずっと触れていると肌荒れを起こしますが、水で伸ばしてクレイパックにしてみると肌がツルツルになりました。
生き物はハエくらいしかおらず、本当に地の果てといった風情です。

直射日光はギラギラ眩しく、浴びているだけで体力を消耗していきますが、湿度が20%程度とカラカラに乾いているため、気温35度でも日陰に入りさえすれば意外とさわやかに過ごせます。じっとりとまとわりついてくるような日本の夏に比べれば数段快適。ただし水のペットボトルは片時も手放せません。
また生活インフラは何もないのですべて自前で準備が必要です。食料も水も持ち込み、自然保護区域で環境を汚染できないため、生活排水やトイレもキャンピングカーのタンク容量がいっぱいになるまでしか出せない、と制限があります。シャワーは諦めなくてはならず、身ぎれいにするのも難しい、女性にとってはなかなか過酷な状況でした(いろいろ諦めて生きていました)。

さて、バルブ口径が合わず少し手間取ったものの、無事にバルーンへのヘリウム充填が完了。白い砂漠、青い空に黄色いバルーンがよく映えます。目立つせいかARRISS参加者がギャラリーに集まってきて、いろいろ質問されました。英語のできない私は、そんな時はそっと気配を消すのでした...... いよいよクライマーを装着しての昇降テスト。キャンピングカーでくつろぐ息子を連れ出し、歴史的瞬間?を一緒に見守ることにしたのですが、息子にとってはあまり興味をそそられなかった様子で、途中で帰ってしまいました。隣ではARLISSがロケットをバンバン打ち上げています。まあ、ロケットに比べれば地味かもね......と恨めしく思う母でした。

この時の昇降テストでは、想定よりバルーンの浮力が出ずにテザーが寝てしまい、クライマーが空転してうまく降りてこられず強制的に引き下ろし。日が暮れてきたこともあり、後ほどナイトセッションにトライすることにして、夕食休憩をとりました。
が、夜になるとともに徐々に風が強くなっていき、夜半には引き下ろしていたバルーンが煽られて地面に叩きつけられる状況に。危険なので急遽テザーを繰り出すリリース作業を行うことになりました。
私は何の役にも立たないのですが、防塵用にゴーグルをはめ、口元を覆って外に飛び出しました。思わずよろめいてしまうような猛烈な風が吹いています。真っ暗な中、車のライトで照らしてみると、風を受けてバルーンは半球状に潰れ、右に左によじれながら地面にぶつかっていました。このままちぎれて飛んでいかないか、固定しているトラックごと引きずられていかないかと不安に襲われます。隙間から入り込んでくる砂塵が目に滲み、呼吸が苦しくなる中で、どうか誰も怪我しませんように......とただそれだけを願いながら作業を見守りました。
尽力の甲斐あって無事にリリース作業は終わったものの、そのころには風も収まりつつあり、全員ちょっとぐったり。Black Rockの変わりやすい天候に翻弄された1日でした。


3.マジックアワー
砂漠2日目の朝はとても静か。昨晩暴れ回っていたバルーンは、嫌味なくらい真っ直ぐに空に浮かんでいます。絶好のテスト日和ですが、翌日から天候が崩れる見込みと予報が出ており、この日のうちに必要なテストや映像撮影は全て済ませようということになりました。はるばるここまで来たのに、やれないことがあったら悔いが残ってしまいます。皆その気持ちになって、少し緊張しているようでした。

幸い天候が安定していたのと、いつも以上に手際よく準備を進めたので、正午ごろにはクライマー昇降テストが実施できました。映像撮影も含め一発成功、その他の素材も順調に撮影が進み、夕方になる前にタスクをほぼ消化できました。昨晩の嵐を乗り越えられて良かった、きっと私たちにはまだ宇宙エレベーターの神様(?)がついているんだとしみじみ感じた瞬間でした。

そして夕暮れ、マジックアワーに再度昇降テストと撮影にトライ。ブラックロックの雄大な景色が美しい紫色に染まる中、LEDを灯したクライマーがテザーを登っていく姿は感動的で、私はきっとこれを見るためにここへ来たのだと確信したのでした。地味だのつまらないだの抜かしていた息子も、さすがにこの時は言葉少なになり、じっと目の前に広がる光景を噛み締めているように見えました。学校だけがすべてじゃないんだよ、世界はこんなに広くて、驚きや感動がたくさん待っているんだよ。私がこの旅で伝えたかったことを、彼が受け取っているのかどうかはわかりませんでしたが、2人でただ黙って同じ時間を共有できたことは、きっと一生心に残るだろうと思いました。
気がつけば日はすっかり暮れて、満天の星空が広がっていました。

満足感とともにキャンピングカーへ戻り、遅い夕食の準備に取り掛かっていると、不穏な風がまたもや吹き始めました。あんなに天気良かったのに!と思う間もなくどんどん風は強くなり、キャンピングカーの外に出るのもままならないほどに。窓から様子を伺うと、バルーンは押しつぶされて赤血球のような形にたわんでいます。昨晩よりもひどそうです。
大丈夫かなと思っていたら、調整に出ていたメンバーから衝撃の報告が。なんと、ついにバルーンがちぎれてどこかへ飛んでいってしまったとのこと......
必要なタスクがすべて終わっていたからいいものの、ちょっと呆然としてしまいました(でもこれでヘリウムを抜く作業はしなくていいな、と妙に冷静に考えてしまったのは内緒です)。
自然保護区域に指定されているBlack Rock、モノを捨てるのはご法度なので、直ちにAeroPacに報告を済ませてきたそうです。ちなみに2週間経って、Playaでズタズタになったバルーンが見つかったと連絡がありました。哀れ、バルーン。

バルーンを失ったことでテストが続行出来なくなり、また予報通り天候悪化が見込まれることから、翌9/14朝に撤収を決め、Black Rockを後にしました。地平線は白く霞んでおり、どうもサンドストームが近づいてきているようでした。
自分の伸ばした腕の先が見えないくらい凄まじいという、噂のサンドストーム。ちょっとだけ体験してみたくもありましたが、砂漠から出られなくなっては元も子もありません。
またいくら乾燥しているといっても、さすがに3日もシャワーを浴びていない生活は女子的に限界だなとも感じており、後ろ髪引かれる気持ちとホッとする気持ちがないまぜになった複雑な心境でした。一方息子は、キャンピングカー生活は物珍しく楽しかったようですが、初対面の大人と慣れない土地で過ごすのはいろいろショックも大きかったようです。現地にいる間は「早く日本に帰りたい」とこぼし続けて私をやきもきさせましたが、帰国してからは時折「楽しかったな」とつぶやいています。今すぐには消化できなくても、いつか彼が大きくなった時にこの経験が生きてくれれば本望だと、勝手な母は願っているのでした。


4.まとめ
砂漠に滞在したのは2泊3日でしたが、競技会実施に向けた課題も明らかになり、調査遠征の目的は十分達成することができたと思います。強風対策もさることながら、生活インフラの整備にもそ相当の人員と物資が必要そうです。同行したメンバーは意に介してませんでしたが、普通の人は2日に1回くらいはシャワーを浴びたいと思うんですよね......(そんなことないでしょうか?)
行く前はただただ不安だったのですが、自然が織りなす雄大な景色の中に身を置き、実験や調査に立ち会えたことは自分の人生における財産になったと思います。今でも時々、朝目覚めたときに窓の外がBlack Rock砂漠なのではないかと錯覚するくらい、インパクトのある土地でした。 GSPECが実現するのか、実現するとしてこのBlack Rockでやるのかは全くの未知数ですが、宇宙エレベーターの実現へ向けて、また戻ってこられたらいいなと個人的には願っています。そのときはもう少し息子にも興味を持ってもらえるように、演出も頑張らないといけませんね!